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  • 執筆者の写真ミズコウアキヒコ

セメダイン臭のする赤ワイン

WINE BAR MAGARRI店主のミズコウです。


ワタシが個人的に好きな味のワインは「セメダイン」みたいな香りがします。


フランスの重たい赤ワインに多いんですが、何かちょっとケミカルな感じの匂いです。


ソムリエ風に言うと、どういう言葉だったのか思い出せません・・・


30年以上前にソムリエ試験の勉強をしたもんで(苦笑)


奥さん、ソムリエ試験に2回落ちたのは二人だけの秘密にしてくださいね。


さて、そんな密約の事を書こうと思ったワケではなく、そのワタシの好みの香りを持つ赤ワインが昨日開いたんです(嬉)


ご紹介でいらした方が「これが気になるなぁ」と言われたので遠慮無くグラスでどうぞと言う事で、開栓させていただきました。


そのワインとは・・・



カラクは、ヴィニャ・マーティのプレミアムレンジの中では比較的新しいワインで、2012年がファーストヴィンテージです。


アイコンワイン「クロ・デ・ファ」を造る際、マーティ氏は選別した原酒をアッサンブラージュしますが、 その後数回テイスティングを行います。


この過程で、惜しくもファーストワイン「クロ・デ・ファ」のレベルに達しないと判断された樽のものが、カラクとして販売されます。


ボルドーの格付けシャトーでは、ファーストラベルに対し、ファーストに達しなかったものをセカンドラベルとして販売する、という手法は一般的です。


セカンドといっても、畑仕事や醸造チームも同じであり、僅かな品質の差で安価で販売されるため、非常に人気の高いワインです。


人気が高いうえに、生産本数もそう多くないため(年によっては生産されないこともあります)常に品薄で、ファーストラベルよりも先に売り切れることもあるのです。



カラクは、このように作られた、クロ・デ・ファのセカンドラベルと言えるワインです。

ブドウの選別、ワイン造り、熟成と、同様の手間をかけていながら、価格はファーストラベルより数段安いワイン。


年間生産量はクロ・デ・ファよりもさらに少なくなるため、ヴィニャ・マーティの中では最も入手困難なワインかもしれません。




ヴィニャ・マーティのセラーからアンデス山脈を見上げると、その稜線は、ちょうど人が仰向けに寝たようなシルエットを描きます。


頭、額、鼻、あご・・・そしてちょうど胸元の付近に、ハート型の大岩が見えます。この岩は、夕日を受けたときに燃えるように照り返すので、昔から住む現地の人々は、この岩を「コラソン・デル・インディオ」、「インディオの心臓(ハート)」と呼びます。 この岩には、現地のインディオに伝わる伝説があります。


昔、ある優れたインディオの戦士が居り、インカの姫と恋に落ちました。


このカップルの誕生に町中が喜びました。


ところが、ちょうど結婚式当日に事故が起こり、姫は式の直前に命を落としてしまいました。


悲しんだ戦士は、姫の墓の前で泣き続けました。

森羅万象の女神パチャママは、この二人を不憫に思い、戦士をアンデス山脈へと変えました。


そして、姫の墓があった場所に、ターコイズブルーの美しい泉が湧き出ました。


その色は、ちょうど姫の瞳の色と同じでした。


この戦士と姫は、それ以来、その土地に住む人々にとって大地の守り神であると考えられてきました。


この、アンデス山脈に姿を変えられた戦士の名が「カラク」です。


クロ・デ・ファの畑からは、この「カラク」の体躯、雄大なアンデスの山並みが一望できるのです。




チリで最も成功した、高品質な赤ワインを生む場所、マイポ・ヴァレー。


首都サンティアゴに近く、温暖な気候で岩石の多い土地が広がり、上質な赤ワイン、特にカベルネ・ソーヴィニョンが生み出されます。


その中でも、岩石の堆積した独特の土壌を持つ「アルト・マイポ」は、プレミアムワイン産地として非常に有名です。


標高が高いため、このエリアのミクロクリマは非常に複雑です。


陽が落ちるとアンデス山脈から吹き下ろす冷風が、畑の気温を一気に押し下げます。この昼夜の寒暖差のおかげで、ブドウの個性が際立ち、香と酸を与え、エレガントなワインを造る上で大きな恩恵をもたらします。






この「アルト・マイポ」に存在する、赤ワイン最上のテロワールの一つがDOピルケ(PIRQUE)です。


ヴィニャ・マーティでは2ヘクタールの畑を所有します。


このDOは、マイポの中でもさらに限定されたエリアを示すDOです。


広域のマイポ・ヴァレーの中にアルト・マイポがあり、その中で特別な区画がDOピルケの認定を受けます。

ボルドーで例えば、広域のボルドーの中にメドックがあり、さらに限定されたポイヤックがあるのと同じ形になります。


DOピルケの土壌を一言であらわせば「マルゴーとポイヤックを合わせたような土壌」。


粘土質の土壌、上部にはところどころ深く、砂利質の水はけの良い土壌が広がります。


砂利質が深く水はけが良い場所にはカベルネ・ソーヴィニョン、粘土質の部分にメルロ、そして大きな石が転がる(ちょうどローヌを彷彿させるような)水はけのよい場所にシラー種が、それぞれ植えられています。


パスカル・マーティ氏は、何よりもこのピルケという場所のポテンシャル、テロワールを信じています。


「チリにはテロワール、ヴィンテージの個性は存在しない、と言う人もいる。


多くのワインは、確かに毎年美味しく、安定している。


ボルドーのように、当たり年だから飲みたい、という声もあまり聞かない。


しかし、それは一つのワインを、広大な畑で大量に作ることで、標準化されているのが原因だと思う。


個性がぼやけて、平均化されてしまうからだ。


ある特徴的な土壌があって、その土地から収穫されたブドウだけでワインを造れば、テロワールはもちろん、ボルドーのようにヴィンテージの個性がしっかり感じられる。

例えばクロ・デ・ファのあるピルケは、小区画でチリでは標高がもっとも高い。


昼夜の寒暖差が激しく、霧がよく発生する。


表土は水はけが良い石灰質、地中は粘土質という土壌だ。


この土地から生まれるワインの味わいのベースは変わらない。


そして、その味に加えて、その年の気候によってワインの味わいは毎年変わる。」







アッサンブラージュはカベルネ・ソーヴィニョン、メルロ、そしてシラー。


カベルネ・ソーヴィニョンでワインの骨格を作り、メルロでワインにふくよかなボディを与え、シラーをスパイスに効かせることで、キャラクターを与える、


と言うのがもともとの設計でした。


全てのワインは自根栽培されており、ピルケのテロワールと、ブドウ品種の特徴をストレートに反映します。


マーティ氏のワイン造りのもと、ピルケという素晴らしいテロワールが化学反応を起こし、出来上がったのが「クロ・デ・ファ」という唯一無二の個性を持つ赤ワインなのです。

チリで有名なブドウ品種「カルメネール」は、このクロ・デ・ファの標高では作ることができません。


代わりに、チリではやや難しいメルロが花開きました。


収穫期が遅いカベルネは、雪が降る直前、6月の収穫ですが、ブドウの果実が樹についている期間が長いおかげで、果実には深い味わい、香りが蓄積され、高い品質になります。


基本的な考え方は、ボルドースタイルのグラン・ヴァンを造るときと同じですが、唯一、異質なのが「シラー」の存在です。


マーティ氏は、ボルドーAOCのルールの枠を超えて、自分のイメージを具現化することもチリを選んだ理由の一つに揚げています。


シラー種のスパイシーな要素、エキゾチックな風味は、彼のイメージするクロ・デ・ファには欠かせない一要素でした。


一見奇異に見えるブレンドですが、はるか昔のAOC法制定前には、五大シャトーも北部ローヌ、エルミタージュのシラーを取り寄せ、ブレンドしていたという記録もあります。


自根ブドウ100%、カベルネ+メルロ+シラーのアッサンブラージュ。


この特徴は奇しくも、はるか昔のボルドーワインと一致していることも、ボルドー好きにとっては興味深いポイントです。



五大シャトー「ムートン」、カリフォルニアの「オーパス・ワン」の後に、チリを代表するプレミアムワインの「アルマヴィーヴァ」を手掛けた時、彼はチリの類まれなテロワールを知りました。


しかし現状の大規模生産ではそのポテンシャルを引き出すだけのワイン造りが出来ない事にも気づいていました。彼の胸の内には、自身のワイナリーを造りたいという思いが芽生えたのもこの頃です。


2003年、アルマヴィーヴァでの自身の役割を果たした、との思いから、彼は自身のワイナリー設立に向け、動き始めます。


コンサルタントとして世界中を回りつつ、ワイナリー設立準備を進めました。


「あのムートン、オーパス・ワン、アルマヴィーヴァを手掛けたパスカル・マーティ氏が新ブランドを立ち上げる」


噂を耳にし、ワイン業界内外で彼の夢に共感した人が続出しました。


例えば「ロード・オブ・ザ・リング」で有名な映画会社ニューライン・シネマ(現ワーナーグループ)のマイケル・リン氏や、元バロン・フィリップ・ロッチルド社の社長で、現在アメリカで輸入会社を経営するオリヴィエ・ルブレ氏もバックアップを申し出ました。


多くの人々の夢も乗せて、2008年、満を持してマーティ氏自らのワイナリー「ディオニソス・ワインズ」を設立。2013年、ヴィニャ・マーティと自身の名を冠したワイナリーへと変更、生涯をかけたプロジェクトとしての意気込みを表現するに至ります。



ワタシの好きな「セメダイン臭」がとても強く印象に残る「KALAKカラク」ですが、今日から2~3日が飲み頃だと思います。


その国を代表するような偉大なワインを醸造して来たカリスマ的天才醸造家の作品を、ぜひアナタの舌でお確かめくださいね。




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